怪談と金属

公開日 2023年04月17日

図1

怪談と金属
 皆さんはラフカディオ・ハーン、小泉八雲を知っていますね。松江に英語教師としてやってきて、松江藩の武家の娘、小泉セツと一緒になり、セツから聞いた話を小説にし、日本の魅力を発信し続けた作家だね。「怪談」とか「日本の面影」が有名かな。
 怪談の中に「鏡と鐘と」いうのがある。ある娘がお寺の鐘を鋳造するために鏡を喜捨したけれども、後で後悔し、その思いの強さで鏡が溶けずに残る。すると誰の鏡かわかってしまい、娘はそれを苦にして川に身を投じて亡くなってしまうというような話だね。(話はもう少し続きますが・・・)
 この鏡、現代ではガラスに銀を薄く塗布して作られています。実際は、もっと工夫がされているから調べてみても面白いね。昔は青銅器や銅などの金属をピカピカに磨いて平らにして鏡として使っていました。そう、金属なのです。なぜ金属が鏡に使われたのでしょう。皆さんもご存じのように、ピカピカ光って金属光沢をしているからですね。
 金属光沢をしているのはどうしてだろう。まず波について考えてみよう。時間がたつにしたがって図1-1から図1-2、図1-3のように紫の矢印の方向、x軸に進んでいく波を考えよう。進む方向に垂直(y軸)に赤い矢印のように何かが振動していると考えよう。これが波(横波)だね。
 電場が振動している波と付随して垂直に磁場が振動している波が電磁波と言われるものだね。テレビやラジオの電波は電磁波の一種で、光(可視光)も電磁波の一種だよ。紫外線やX線も電磁波の一種で、次第に波長が短くなって呼び名が変わっていくんだね。
 金属には『銅と周期表』のところで述べたように自由に動ける電子があって、光(可視光)が金属にあたると電場によってマイナスの電荷を持った電子が集団運動として揺り動かされ、振動数がある値(プラズマ振動数)より小さいと電磁波が侵入できず、反射が起こる。金属では可視光あたりにプラズマ振動数があり、可視光が反射され金属光沢になる。もしも人間の目が紫外線を見ることができれば、透明に見える金属もあるということだ。
 鏡にまつわる話にはいろいろと面白い話がありますね。卑弥呼にかかわる鏡といわれる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)があります。これに太陽光を当てて壁に反射させると、裏の文様を映し出す。ピカピカに磨いた鏡なのに何かが写る。これを見た昔の人は驚いただろうね。これを現代の科学技術で再現するため、3Dレーザー計測で鏡の形状を計測し、3Dプリンタ(金属粉体焼結積層造形)で復元模造鏡を作ると2)、裏面の模様が実際に映し出された3)。その原因は鏡の形状と文様部分の薄さにあるといわれているよ。
 日本を離れると、ギリシャ神話にでてくるメデューサ、彼女は見たものを石に変えてしまうという魔力を持つが、退治にやってきたペルセウスが鏡のように磨いた青銅の盾をかざすと、魔力が盾(鏡)に反射してメデューサ自身を石に変えてしまい(別の話では盾にメデューサの姿を映し、首を討ち取り)退治したという話。日常生活では鏡に映る像は右と左が逆になって見えますが、上と下がさかさまになって見えることはありません。それはなぜかという問いもあります。

 

参考文献など
1)    村上隆  『化学と教育』64巻(2016年)、242-243.
2) KYODO NEWS『卑弥呼の鏡は魔鏡 3Dレプリカ実験で文様浮かぶ』https://www.youtube.com/watch?v=_jQkRKwQlZ8