「ネイチャーマテリアルズ誌」に掲載!金属における原子配列の乱れの不思議な動きを世界で初めて観測

公開日 2020年03月30日

次世代たたら協創センター 副センター長 荒河一渡教授による研究論文が、材料分野で最も影響力のある Nature Materials 誌に掲載されました。本成果は、フランス CEA-Saclay およびCNRS、英国 University of Leeds および CCFE、日本 日本製鉄、名古屋大学、および大阪大学との共同研究によるものです。

【論文】
・Kazuto Arakawa, Mihai-Cosmin Marinica, Steven Fitzgerald, Laurent Proville, Duc Nguyen-Manh, Sergei L. Dudarev, Pui-Wai Ma, Thomas D. Swinburne, Alexandra M. Goryaeva, Tetsuya Yamada, Takafumi Amino, Shigeo Arai, Yuta Yamamoto, Kimitaka Higuchi, Nobuo Tanaka, Hidehiro Yasuda, Tetsuya Yasuda, Hirotaro Mori: ‟Quantum de-trapping and transport of heavy defects in tungsten”, Nature Materials, https://doi.org/10.1038/s41563-019-0584-0.

【論文の概要】
 金属における原子配列の乱れ(欠陥)の動き(拡散)は、異なる種類の原子同士を混ぜるプロセス(合金化)などを支配する重要なものです。拡散の激しさ(拡散係数)の温度依存性は、約1世紀前にスェーデンのアレニウス博士が定式化した「アレニウスの法則」によって記述されます。アレニウスの法則によれば、温度の低下とともに、拡散係数は急激に低下して低温ではほぼゼロになります。すなわち、低温では拡散は起こらなくなります。一方で、水素等の極めて軽い原子だけは、低温でも、拡散係数がゼロにならない、すなわち拡散が起こることが知られています。この現象は、現代物理学の根幹をなす「量子力学」によって説明されるものであり、「量子拡散」と呼ばれます。
 本研究では、透過電子顕微鏡を駆使して、タングステンという、水素の184倍の質量を持つ元素からなる金属において、欠陥の低温での量子拡散が起こることを世界で初めて実証しました。この結果は、金属における拡散についての約1世紀にわたる常識を打ち破るものです。
 この成果は、鉄鋼材料などを低温で改質する新たな道を開き得るものです。また欠陥が多量に導入される材料(たとえば、将来のエネルギー源である核融合炉の材料)の開発に役立つと期待されます。


タングステンにおける低温での欠陥の動きを直接捉えた透過電子顕微鏡写真
黒い背景に対する白い粒状コントラストは、欠陥の像。「10 nm」は、1億分の1メートル。

【メディア紹介】
この成果は、国内外の次のメディア等で紹介されました。
・山陰中央新報(2020 年 2月 27 日)
・Redação do Site Inovação Tecnológica(2020 年 2 月 19 日)
https://www.inovacaotecnologica.com.br/noticias/noticia.php?artigo=lei-arrhenius-mecanica-quantica&id=010160200219#.XoFXiGDgphF
・Physics world(2020 年 2 月 21 日)
https://physicsworld.com/a/quantum-diffusion-of-heavy-defects-defies-arrhenius-law/
・Квантовая диффузия нарушила классический закон Аррениуса(2020 年 2 月 26 日)
https://nplus1.ru/news/2020/02/26/quantum-diffusion
・EUROfusion News (2020 年 3 月 23 日)
https://www.euro-fusion.org/news/2020/march/unfreezable-defects/

【この研究に関するお問い合わせ先】
 次世代たたら協創センター 副センター長 荒河一渡
    E-mail: arakawa[at]riko.shimane-u.ac.jp
    ※メール送信時は[at]を@に変えて下さい。